SURGICAL RISK — OVERVIEW
手術リスクスコアの位置づけ
EuroSCORE II / STS Score / JapanSCORE
「2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン」は、TAVI と SAVR の選択における弁膜症チームの検討事項として、SAVR 手技リスクを EuroSCORE・STS score・Japan SCORE などで評価することを挙げています。本ページは 3 者の性格の違いと入手方法を整理したものです。本ページ自体は計算を行いません。
参照:2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン(p.68)
最終監修:2026-08
最終更新:2026-08
FOR HEALTHCARE PROFESSIONALS
本ページは医療従事者向けです。手術リスクの説明資料として患者さんに直接お示しすることを想定していません。
本ページは各スコアの性格と入手先を整理した情報提供であり、術式の選択や手術適応の判断を行うものではありません。
01
3 つのスコアの対照
同一症例でも 3 者の算出値は一致しません。開発母集団と対象術式が異なるため、値そのものより「どの母集団に照らした推定か」を意識して用いる必要があります。
EuroSCORE II
EUROPE, 2012
係数が公開されている
開発母集団欧州を中心とする多施設。2010 年に収集された成人心臓手術症例。
対象成人心臓手術全般(単一のモデルで術式の重みを変数として扱う)
公開状況原著論文(Nashef SAM, et al. Eur J Cardiothorac Surg 2012;41:734-745)に回帰係数が掲載されており、再実装が可能です。
留意点旧 logistic EuroSCORE が死亡率を過大評価する傾向を受けて改訂されたものですが、EuroSCORE II は逆に過小評価する例があると報告されています。データが 2010 年時点である点にも注意が必要です。
STS スコア
NORTH AMERICA
係数は非公開
開発母集団北米の STS Adult Cardiac Surgery Database(ACSD)
対象術式カテゴリごとに個別のモデル(単独 CABG、単独弁手術、弁+CABG など)
アウトカム手術死亡に加え、脳卒中・腎不全・長期人工呼吸・深部胸骨創感染・再手術などの主要合併症、在院日数
公開状況回帰係数は一般には公開されていません。研究者への提供についても運用が見直されています。第三者による再実装はできません。
留意点TAVI に関する主要な臨床試験が登録基準に用いてきた経緯から、TAVI と SAVR の選択を議論する場面で参照される機会が多いスコアです。一方で母集団は北米であり、わが国の成績とは前提が異なります。
JapanSCORE
JAPAN, JCVSD
計算式は非公開
開発母集団日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD/NCD)に蓄積された、わが国の成人心臓血管外科手術症例
対象成人心臓血管外科手術。胸部大動脈手術のモデルも整備されています。
アウトカム30 日手術死亡、および 30 日手術死亡+主要合併症
公開状況公式サイトおよびアプリで計算できますが、計算式は公開されていません。第三者による再実装はできません。
留意点3 者のうち唯一、日本人症例を母集団とするスコアです。わが国の症例に対する予測精度という観点では優位性があり、患者説明にも用いられています。
02
リスク区分として慣用される閾値
TAVI と SAVR の選択を議論する文脈では、予測手術死亡率について次の区分が用いられることがあります。
- 低リスク — 予測手術死亡率 4% 未満おおむね SAVR が優先的に検討される区分
- 中等度リスク — 4 〜 8%弁膜症チームでの検討が特に重視される区分
- 高リスク — 8% 超TAVI が優先的に検討されてきた区分
- これらの数値は、主として TAVI の臨床試験が登録基準に用いた区分に由来するものであり、診療ガイドラインが定めた正式な分類ではありません。またスコアの種類によって同一症例でも値が異なるため、どのスコアによる何%かを明示せずに区分だけを用いることは避けてください。区分の出自に注意
03
スコアが捉えないもの
いずれのスコアも、登録された変数の範囲でしかリスクを表現できません。次の要素は反映されないか、反映が不十分です。
- フレイル、認知機能、栄養状態、サルコペニア高齢者では術後経過を大きく左右します
- 上行大動脈の高度石灰化(porcelain aorta)、胸部への放射線照射の既往、開存する冠動脈バイパスグラフト胸骨再切開や大動脈遮断の可否に直結する解剖学的因子
- 肝硬変、担癌状態、重度の呼吸器疾患など、術後管理を規定する併存疾患の重症度有無としては入力されても、程度は反映されません
- 施設・術者の経験、術後管理体制スコアは母集団の平均的成績にもとづきます
- 本ガイドラインも、解剖学的特徴・併存疾患・フレイル・患者の価値観を加味したうえで、最終的には弁膜症チームで決定すべき事項としています。スコアは議論の出発点であり、結論ではありません
04
本サイトで STS スコアと JapanSCORE を計算しない理由
- 両スコアとも回帰係数・計算式が公開されておらず、第三者が正確に再実装する手段がありません。EuroSCORE II は原著論文に係数が掲載されているため実装しています
- 推定した係数で計算機を作れば、予測死亡率という治療方針に直結する数値が誤った値で表示されることになります。運営者はこれを行いません。計算できるものとできないものを区別する方針
- 両スコアについては、公式の計算機をご利用ください。上記 01 に入手先を記載しています。公式計算機はいずれも無償で利用できます